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モノクロームロマンス文庫(海外BL小説)の傑作「アドリアン・イングリッシュ」感想〜本格ゲイミステリが寝かせてくれない!!〜

*以下、「アドリアン・イングリッシュ」シリーズの概要を説明する程度の軽め〜のネタバレあります。

 

1 まずは「アドリアン・イングリッシュ」シリーズの簡単な紹介

BL小説はあまり詳しくない自分なのですが、ふと読み始めた「アドリアン・イングリッシュ」シリーズにはどっぷり沼ってしまいました。

 

天使の影 ~アドリアン・イングリッシュ1~ (モノクローム・ロマンス文庫)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞑き流れ~アドリアン・イングリッシュ5~ (モノクローム・ロマンス文庫)
 

 

 

 何と1巻〜5巻まではkindle unlimitedで読める・・・!!

 皆読んでくれ・・・!!

 

これはM/M小説と言われる海外BL小説を翻訳して発行している「モノクロームロマンス文庫」の看板作の一つ。

 

海外BL小説には日本のBLとは少し違った特色があって面白いです。

 

まず、受けの人も結構激しいというか割と気が強いことが多いこと、そして性行為の描写が主に実況中継というよりも感情描写中心になりがち、そして結構リバが多い、そして登場人物が元々ゲイであることが多い、といった感じでしょうか。

 

自分はリアリティのある作品が好きなので、海外BLは本当にツボでした。

 

 

 

本作「アドリアン・イングリッシュ」はBL小説というよりも、「ゲイミステリ」と言った方が正確です。

 

ゲイミステリというのは、自分はあまり詳しくなかったのですが、海外ミステリには密かにそういう分野もあるようです。

詳しく調べないと・・・!!(義務感)

 

アドリアン・イングリッシュの作中でもこうした先人たちの作品へのリスペクトが感じられ・・・というより、主人公アドリアンがミステリ書店を経営するくらいなので、ゲイミステリに限らずとも、ミステリ全般に関する知識はよく披露されます。

 

骨太のミステリで、謎解きというよりも登場人物が犯人を探すその過程や犯行の動機を楽しむ感じです。

 

ミステリといってもトリックを楽しむというよりも、サスペンス色が強く、深入りしすぎてよく危険な目にあるアドリアンをハラハラと見守るような。ミステリ+ゲイロマンス。

 

 

 

主人公のアドリアン・イングリッシュは心臓に疾患を抱える書店オーナーの32歳(第1巻時点)で、黒い髪に青い目の美形(少なくとも美形俳優のモンゴメリー・クリフトマット・ボマーに似ていると作中で言及されています)。

 

身長は180cm位あるけれど細身。

 

殺人事件を引き寄せる体質(これについては作中で散々彼の自虐のネタとなりますが)で、しかも素人探偵として自ら事件に首を突っ込んでいきます。つまり少し危なっかしくて放っておけないタイプ。頭がいいけれど(スタンフォード大の文学専攻)頑固でやや内向的、自己完結癖があり、少し澄ましたような雰囲気もある

(ジェイク曰く、「お前は・・・優雅すぎる」)。

 

 

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こちらが往年のハリウッド二枚目俳優のモンゴメリー・クリフトさん。

 

 

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こちらがホワイトカラーの主演でお馴染み俳優のマット・ボマーさん。ちょっと若い頃の写真かな。


モンゴメリー・クリフトは、バイセクシャルではないかとも言われていた俳優です。マット・ボマーはゲイを公言していて、14歳年上のPR会社社長のサイモン・ホールズと結婚しています。

 

この2人は本国でも似ていると言われているらしく、モンゴメリー・クリフトの伝記TV映画にマット・ボマーが主演することが決定しているようです。

楽しみですなー。

 

マット・ボマーはマジで美形ですよね。彼を作りたもうし神よ(というかご両親よ)ありがとう。

 

マット・ボマーはHBOのTV映画「ノーマル・ハート」の熱演が凄いので是非見て欲しい。マーク・ラファロとの結構激しいベッドシーンもあるぞよ。

 

 

 

そしてもう1人の主要人物であるジェイク・リオーダンは、LA市警殺人課の刑事で39歳(1巻時点)。その職業から予想される通りの「男らしい」タフガイ。

 

金髪にヘーゼルアイ、身長は190cm位で筋肉質、鍛え上げられた肉体を誇る。

 

ゲイを公言しているアドリアンと違い、ゲイであることを隠して女性とも付き合ったりしており、「普通であること」を諦めきれず、ゲイである自分に強烈な自己嫌悪を抱える面倒臭い・・・もとい難しい人物。

 

ジェイクの個人的なイメージとしては身長を更に高くしたルーク・エヴァンズ(183cm)あたりとかかな。最近だと、実写版「美女と野獣」のガストン役でお馴染み。

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こちらがルーク・エヴァンスさん。

何と彼もゲイを公言しているんですよね。

 

まだまだ偏見や抵抗はあるでしょうが、有名な俳優がゲイを公言できる自由の国アメリカ。日本がそんな風になるのはいつになることやら・・・(遠い目)。

 

 

 

殺人事件に巻き込まれながらも顔を突っ込んでいくアドリアンと彼に呆れたり心配したりしながらもアドリアンを助けて捜査を進めていくジェイク。

 

そしてそして、この「アドリアン・イングリッシュ」シリーズが、もう面白すぎる!!!

 

卓越したストーリーテーリングと上手な文章で読み始めたら止まりませんマジで。一冊あたりのボリュームもかなり充実していて、このお陰で、深刻な寝不足に悩まされましたよ、私は。

 

風景・人物描写、感情描写を比喩的に表現するのがとっても上手かつ秀逸で、それが語り手であるアドリアンの魅力にもなっています。

 

ミステリとしても夢中になる本格的な面白さで、アドリアンとジェイクの関係性を描くラブストーリーとしても傑出の出来。

 

マイノリティーであることの悩みも描かれ、特に警官という立場でカミングアウトしていないジェイクの生き方は彼自身も周り(特にアドリアンにとって・・・)も中々に辛いものがあります。

 

 

 

アドリアンは受だし、戦闘力が高く体格も良いジェイクに「守ってもらう」ことが多い訳だけれど、アドリアンは、何というか、少しシニカルで反抗的で結構気も強くて、一筋縄じゃいかない男で、そこが良いんだなあ。

 

細身の美形で心臓に疾患があるという儚げな設定である一方で、結構気が強くて他人との間に知らず知らずに壁を作りがち。

 

弱みを見せたくなくて、自分の気持ちに中々素直になれない所もある。

 

何か、気が強い美形って外国でモテそうな感じですよね。


私も気の強い美形になりたい(唐突な願望の告白)。

 

 

 

*さて、ここから、特に人間関係部分についてかなり重めのネタバレとなりますので、5巻(&「So This is Christmas」)まで既読の方か、ネタバレしてもOKという方のみお願いします!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 魅力的なサブキャラたち

 

アドリアン・イングリッシュ」はですね、毎巻、ジェイクのライバルとなる攻め(ライバルたちが攻めかどうか不明ですが)が出てきてですね、アドリアン総受け状態。特に5巻は総受け感が凄いです。

 

1巻では、アドリアンの筋金入りストーカー、恐怖のブルース・グリーン。

 

2巻では、年下の可愛い大学生で、少しジェイクに似た風貌のケヴィン。ケヴィンこそ当て馬。

 

3・4巻では、大人の男、知的な大学教授のガイ・スノーデン。

 

*4巻ではどっちかというとアドリアンのライバルとして、超美形俳優のポール・ケインが登場。

 

5巻では、満を持して登場(という割にはそんな活躍しなかったけど)の「元彼」メル・デイビス

 

 

 

中でも一番のライバルと言っていいだろうガイ・スノーデンはジェイクとは全く異なる魅力のイイ男。アドリアン自身もガイとはきちんと付き合いたいと思い、実際2年間程付き合っていましたね。

 

カミングアウトしており、知的な大学教授であり優しくて包容力のある大人の男。喧嘩しても自分の感情をちゃんとコントロールしようとする理性を持ち合わせている。恋愛するのはジェイクに惹かれても、結婚するならガイの方がいいんじゃ?? ガイにしとけば??   とか、特に4巻あたりでは自分は思ってましたけどね。

 

でも、どうにもこうにもジェイクに惹かれてしまうアドリアンアドリアン目線で話が進んでいくので、彼に感情移入し易いとはいえ、ジェイクは大変な男ですが、やはり、魅力的なんですよね。

 

 

 

ジェイクは、口数多くないし男臭くてぶっきらぼうな感じがしますが、実は凄く優しくて(アドリアン相手だから特別ということもあるでしょうが)、結構ストレートに感情をぶつけてくるんですよ(少し捻くれていて中々感情を真っ直ぐに表現しないアドリアンと違い)。

 

で、結構ロマンチストで一途なんですよ。

 

そして、「古き良き警察官」の心を持っている、正義感に溢れており卑怯な真似のようなこととは無縁の男。

 

まあ、その「マッチョさ」が悪い方向に働くことも多々ありますが。

 

 

 

そのほか、とても人間臭い、魅力的なサブキャラが沢山出てきます。

 

自分のお気に入りはアドリアンの母親、リサ(アドリアンの美形は母親譲り)。美しき元バレエダンサーで成功したソーシャライツです。

 

こんな共感性の低そうなステータスながら、アドリアン目線で読み進むと彼女が段々と憎めない魅力的なキャラクターになっていくんです。アドリアンが母親について作中で常に皮肉を言い続けているんですが、それが面白い。

 

 

 

3 毎巻変わる世界観や舞台

 

アドリアンの経営する「クローク&ダガー書店」はパサデナにあるので主な舞台はパサデナです。パサデナはロサンゼルスの北東に位置するカリフォルニア州の都市。

 

1巻ではアドリアンの周りで高校時代のチェスクラブのメンバーが次々と殺害される事件が起こり、事件を担当したジェイクと容疑者の1人と疑われたアドリアンの出会いの巻。

 

2巻ではアドリアンが祖母から受け継いだ牧場、パインシャドウ牧場を舞台にゴールドラッシュの光と影、そして先住民族の言い伝えも絡んだ殺人事件に挑む2人。

 

3巻では書店の不思議店員アンガスも巻き込み、UCLAも侵食した悪魔崇拝の黒魔術集団と対峙することになる2人。

 

4巻では煌びやかなハリウッドセレブ達が犠牲となる連続殺人事件が起こります。西海岸らしく海、クルーザーといった舞台が出てきます。

 

5巻は「クローク&ダガー書店」拡張工事に伴って床下から発見された白骨死体の謎を解くために1950年代に何があったかを探りつつ、最終巻らしく2人の関係性もこれまでの集大成として結実します。

 

毎巻、2人を取り巻く雰囲気が変わり、事件の舞台も2人を取り巻く人物も少しづつ変わり、それぞれ全く異なる世界観の魅力が溢れています。

 

4 アドリアンとジェイクのお互いを救う人生の旅

各巻でアドリアンの周囲で起こる殺人事件と同時並行で、アドリアンそしてジェイクの人生、2人の関係は変化していきます。

 

1巻は2人の出会いの巻。

 

そして2巻で2人の関係は劇的に進展します。隠れた付き合いながらも熱烈にお互いを愛する付き合い始めの一番熱い時期。しかしこの不安定な関係は長くは続かず、3巻ではジェイクの結婚という形で2人の関係は最悪の形での終焉を迎えます。

 

そしてしばらく年月が経ち、4巻で何とも微妙な形で(殺人が起こった後の現場で)再会する2人。

 

3〜4巻あたりはアドリアンが一番精神的にも肉体的にも辛い時期で、読者のジェイクに対する怒りが爆発する時期でしょうね。

 

しかし4巻で未練満々のジェイク。これまで本当の自分を隠して、自分ではない何かになろうとして必死に生きてきたジェイクでしたが、最終的には自身の性志向をカミングアウトしそれを乗り越えます(その過程で自分を傷付けつつアドリアン、ケイト等大切にすべき人たちをも傷付けてしまいますが)。

 

5巻は本当の自分で生きていくことを決意したジェイクに対して、ジェイクの結婚宣告以降傷付いた心を、そして怒りを抑え込んでいたアドリアンが自身の気持ちに向き合う巻になります。

 

3、4巻で「色々とありすぎて」また傷付きたくないという防衛本能から素直にジェイクの気持ちに応えることができないアドリアン。誰かを強烈に愛することは、また同時にそれだけ、ー愛が強ければそれと比例してー傷付く可能性があるということでもあります。自分と付き合うことがジェイクにとっても幸せなことであるのかについても自信が持てなかったのかもしれません。

 

 

 

5巻では、ジェイクと同様に元警官でありかつゲイである人物ニック・アーガイルが重要人物として出てきます。そのキャリアだけではなくて雰囲気もジェイクと似たものを持つ人物。

 

ただジェイクと違い、彼は自身の性志向のカミングアウトはできず、それゆえか否かはわかりませんが、真に愛した人物と結ばれることができず、自分の愛した人物を殺してしまった暗い過去があります。彼を見てアドリアンは「ジェイクはこうなっていたかもしれない」と考えます。

 

彼がアーガイルのようにならなかったのが奇跡だったのだと。紙一重のところだったのだと。

 

時代のせいかー何が原因かなんて特定することの困難なものが人間の行動であり人間関係なのですが。

 

 

 

そして、辛かったであろう、苦しんできたであろうアーガイル、そしてジェイクのことを思って、自分とジェイクのことを思って、涙を止められなくなったアドリアンにジェイクが、こう言います。

 

「お前に言っておきたいことがある」

「俺はいつも幸運だと思ってきたー結婚していた間も、たとえもうお前をあきらめるしかないと信じた時も。俺が恋に落ちた相手が、お前だったことを」

 

 

間違いなくアーガイルに自分を重ねていたであろうジェイクは、涙を流したアドリアンの心中について察していたのでしょう。

 

辛かったこともあったのでしょうが、自分は決して不幸ではなかったのだと、幸せだったのだと。何故ならアドリアンに恋することができたから。例えそれが成就しなくても。

 

それを聞いたアドリアンはこう独白します。

 

ー本当なのかもしれない。たった一人の存在が誰かを救うことがあるのかもしれない。愛で、何かを変えられるのかもしれない。僕の世界が変わったように。ー

 

無自覚ながら、どことなく他人に壁を作って生きてきたアドリアンと、自分を憎み自分を押し殺してきたジェイク。そんな難しい性格の2人の世界は、しかしお互いの存在でー何かがー変わります。

 

 

 

お互いに乗り越えるべきものは自分の中にあり、自分自身との葛藤や自分自身との戦いなのですが、誰かの存在により自分が変わるきっかけ、自分が救われるきっかけになることがあるのです。

 

それは他人に何か求めたり期待することではなくて、誰かに恋したこと、愛したことという人生の奇跡を、「受け止める」こと。

 

アドリアン・イングリッシュ」を読んで、やっぱり恋とか愛とかの本質は「愛されること」ではなくて「愛すること」にあるんだなと。こんな人生の輝きがあることに自覚的に生きていきたいとの思いを強くしました、そう、ージェイクや、アドリアンみたいに。

 

 

 

*ジェイクとアドリアンの物語はゲイであることや、様々な殺人事件に巻き込まれたこととによって、波瀾万丈なものになっている(そうでないと読んでいてつまらないしね)上、一方がやる気になったら他方が及び腰になったりと、もどかしさ100%なので、結ばれたときのカタルシスがものすんごいです。

しかも2人とも、なかなか自分の素直な気持ちを言葉では表現しないので。その分5巻で(クリスマス外伝「So This is Christmas」でも!)2人が溜め込んできた自分の気持ちを相手に伝えるシーンではもう、目の前が滲んで文字が読めないです。

 

 

以下、「So This is Christmas」のネタばれあり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*なお、「So This is Christmas」では、M/M恒例の?リバも出てきますよ奥さん。リバはダメ絶対という人も結構多いですが、自分もそんなに好きではないです。ダメ絶対とまではいかないですが。しかし、厳密に言うと男同士ラブでしかなし得ないことなので、これこそが真髄と言われたら「そうかも」と思ってしまうかもしれません。

相手と同じものを感じたいという理由で、自分の性志向を認めることも中々困難だった「マッチョな」男のジェイクが受けをやることは感動的でありますし、アドリアンも非常に驚いていましたよね。男同士でリバはそんなに騒ぐようなことでもないけど、相手がジェイクとなると別だと。